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小説 『As A……』 第2回

意外にも(失礼)出てきた料理はおいしかった。聞くと、目の前に並んでいるたくさんの料理は全部ヘーゼルさんが作ったらしい。バスを運転したり料理を作ったり、まさにヘーゼルさまさまだ。
「相変わらずセンセは食べ物のことになると素早いな。もうちょっと味わって食べたら?」
「食在戦場。食は戦場に在り。食べるってことは戦いなんだよ」
ちゃんと物を飲み込んでからしゃべるようになったのは進歩だけど、たぶん先生の頭の中では「常在戦場」と「食は広州に在り」がごっちゃになってるだけだと思うよ。
「すいません。ちょっと、ここ、いいですか?」
「あ、どうぞ」
声をかけてきたのはスーツ姿の大柄な男の人だった。片手にはストロー付きの水筒みたいなものを持っていて、しょっちゅうそこから何かを飲んでいる。
「お兄さん、ここ来てもええけど、この食欲魔人のせいでほとんど残ってへんで」
「それは大丈夫です。向こうでいっぱい食べてきましたから」
指した先には空皿の山。あれを平らげてまだ食べられるとは、この人も先生といい勝負かもしれない。
「申し遅れました。私、お庄屋さんの庄にお庄屋さんの屋で庄屋と申します」
「まどろっこしい自己紹介やな。ウチは水木杏奈。そこで食べ物にバクついてんのが月見里センセ、隣に座ってんのが娘の優菜ちゃん」
「ちなみに僕は教授です」
先生がすかさず付け加える。それって絶対に言わないといけないことなのだろうか。
「するとあなたがあの有名な月見里教授ですか。お噂はかねがね伺っております。回文を操るロボットをおつくりになったとか」
庄屋さんは片手で水筒を、片手で先生の手を握って熱く話している。
「私は教授のお書きになった本は全部もってます。『リモコン子守り』『Cray Rome Memory Arc』『眺めて魔眼』……。教授の回文に対する貢献はノーベル賞ものだと思います。おそらく近い将来教科書には教授の回文が並ぶでしょう。間違いなく」
「いやいや、僕もあなたのような人と出会えて本当に良かった。日本ではまだ広く認知されているとは言い難いですからね、この面白さを伝えていくのが僕たち回文研究家の崇高なる使命。世界中にこの言語芸術を布教、もとい普及させましょう」
先生も目をアツく輝かせている。男のロマンというやつがあるのだろう。
「というわけで、教授のサインを頂けたら……」
「もちろんです」
先生は懐からサインペンを取り出し、手の中で一周させて見せた。というか常備してたんだ、サインペン。
「いや~、これ、もう家宝にしますよ」
「それがいいでしょう」
先生はちょっと褒められて調子に乗っている。わかりやすい人だ。
 庄屋さんは何かに気づいたように目線を移動させると、その先にいる少女に声をかけた。
「古手氏、古手氏、こっちですよ」
「庄屋クンはまだ食べているのですか?」
袖なしのワンピースにおかっぱ頭。寒くないのだろうか、真夏のような麦わら帽子を抱えている。
「人さまの所へ行ってまで食べるなんて、どういう料簡なのですか?」
「いや、それは誤解で、この月見里教授は、それはそれは有名で権威のある教授先生なんです。だから、かねてから教授を私淑していた僕は、教授の謦咳に触れようかな~、なんて思ったりして」
「どうもうちの庄屋がご迷惑をおかけしまして。お詫びと言ってはなんですがこれを」
「聞いてます僕の話?ていうか古手氏もその帽子の中の料理、立ち食いじゃないっすか」
どうやらこの古手氏なる人物、庄屋さんの知り合いらしい。大きな麦わら帽子から取り出されたものに先生は興味津津。
「あ、ここ、どうぞ」
私は古手さんに自分の隣を指し示した。
「それでは、お言葉に甘えて、失礼するのです」
なんだかどこかで聞いたようなしゃべり方だ。
「新種のウイルスか何かですか?」
「???」
……まあ、いっか。
 私と水木さんは軽く自己紹介をした。古手さんもそれに倣う。
 先生と庄屋さんは料理に口をつけながら(&庄屋さんは水筒にも口をつけながら)回文談義に花を咲かせているけど、私たちはもう食べるものも食べたし、かといって向こうみたいに回文で楽しむというわけにはいかない。自然私たちの話題は明日の城のことになる。
「先生が……あ、月見里教授が、“魔王城”だとか言ってましたけど」
「この科学万能の二十世紀に魔王やなんておるわけないやん」
「今は二十一世紀なのですよ。それに“水木杏奈”なんていかにも魔王の出そうな名前なのです」
「どんな名前やねん」
「あれなのでしょう、あなた、てれび戦士の……」
「それは“白木杏奈”や」
訂正。話題は明日の城を通り越して迷走しだした。
「そう言えばひぐらしの実写版にも元てれび戦士が出てたわ。誰やったっけあれ」
「これ以上前田公輝君をいじめたら……どうなるか分かっているのですか?」
古手さんがどす黒いオーラを放っている。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「せっかくイギリスまで来たんですから、そんな嫌な事件の話はやめませんか」
それとなく制止してみる。
「そやそや。ユーナちゃんの言うとおり。もっと英国貴族的な話をせんと」
「でも、私たちは英国貴族ではないのですよ」
「英国貴族やなかったら英国貴族的な話をしたらあかんなんて法はないやろ」
英国貴族的な話って平民でも簡単にできるものなのだろうか?
「そう言えばウチの友達に『けいおん』のCD二枚とも買った子がおってな」
全然英国貴族的な話じゃない気がする。
「毎日聞いてたらそれ聞かへんと寝られへんようになったらしい」
「それで、どうしたのですか」
「そやから言ったったんや、桜高軽音部の曲聞かんと寝れへんなんて、これがホンマの“sakura-addiction”やな」
「……くっだらないのです。関西弁をしゃべりながらこんなくだらない話しかできないなんて、詐欺もいいところなのです」
「な……、何やそれ、いろんな関西人がいてもええやないか。アンタ関西人は全員お笑い好きやと思ってるやろ。あんなんテレビで初対面の人に『バーン』ってやられて倒れる振りすんのはごく一部やで。大多数の人間はつつましやかに生きてるんや」
英国貴族がこんな話してたらロンドン塔に幽閉されてもしょうがない。
「ま、そんなくだらない話をしている暇があったら、関西を元気にする方法でも考えることなのです」
水木さんの目が怪しく(妖しく、ではなく)輝く。
「ウチが温めとった超ド級プロジェクト、今ここで発表したろやないか」
立ち上がり、存在しないホワイトボードに腕を叩きつける。
「谷崎の不朽の名作がついにそのベールを脱ぐ!“こいさん!”」
「……安直なのです。とりあえず京阪神出しとけみたいな単純な考えがありありと見えるのです」
「安直やろうと何やろうとが、画面に出しさえすれば後は聖地巡礼→経済活性→幹部昇進→支部長就任イイ感じ~、阪急乗る人おけいはん、や!」
支離滅裂過ぎて何が何やら。
「それだけでは終わらんで~。“こいさん”のパジャマに筆箱、自由帳。町じゅうに細雪ごっこをする小学生女子の声がこだまする日も近い!」
「地獄絵図、なのです」
「そしてあわよくばウチの母校をちょっとだけ出して某T小的に有効活用!」
「時代背景を超越しすぎなのです。そんな時間感覚のないアニメは御免なのです」
だいたいあの小学校はアニメに出ても出なくても最初から保存されるはずだったんでは?
「ウチの学校は明治時代から今もずっと続いてるんや。今でも時々大文字駅伝に出たり……」
「何でまだ続いてる学校を保存する必要があるのですか」
「・・・」
水木さんは答えない。というより答えようがない。あまりにももっとも過ぎるツッコミ。
「いや、けど、小学校が百年も続いたら大したもんやで。百年あったら四代、下手したら五代は通えるってことやし。ていうかそこまで続いたらもう最初の頃のことなんて覚えてる人もいいひんようになってるってことやろ。建物やって変わるし。中の人も外の建物も変わったんやったら、続いてんのは何なんやろな」
「そんなことを言い出したら、人間を構成している物質なんて六日で全部入れ換わると聞いたことがあるのです。だから、やりたいと思ったことはその時にやったほうがいい、とも」
いきなりずいぶんと話が飛んだ。
「あれやろ、今はやりの“動的平衡”とかいうやつやろ。そういう意味では小学校も生き物ってことやな。幼稚園児保育園児を食べて、中学生を排出する。餌の子供が減ったら統廃合で共食い」
「あんまりぞっとしない表現なのです」
そりゃあ小学校がそんな肉食動物みたいな扱いされたら
「排出物扱いは嫌なのです」
そっちか。
「まあ、学校自体が一つの生き物、という考え方はさっきの話に比べればまだ面白いのです。ありきたりな表現なのですが、日本人はずっと動かないものには神を見るものなのです。ご神体なんて、大体木とか石とかなのです」
「それに何かそういうとこってめっちゃ閉じてる感じせえへん?神社やって普通森ん中とか奥まったとこにあるやん。ウチの通てたとこも北側は森みたいに木ぃばっかりやったし、立地条件自体、変なとこやったわ。南向きの斜面を削って平らにしたみたいでな、南側は地面がおんなじ高さのとこにあんのに、北側の道路は校舎の屋上くらいの高さがあって、校舎の北側は崖みたいになってるんや。やっぱり学校も守られるように建ててあんにゃな」
「当たり前なのです。学校がうぇるかむあんのうんだったら危なくてしょうがないのです」
「そやなくて、だから生き物になる余地っていうか、そういうのがあるってことやんか」
「でも私の通ってたところはそんなに周りから断絶してはいなかったんですけど」
一応会話に参加してみる。
「どんなとこやったん?」
「道があって、その北側に校舎、南が運動場っていう。高校ですけど」
「高校か~。高校は高校で独特の空気があるからな、何とも言えへんけど、どうなん、やっぱり雰囲気はあるやろ。外との温度差って言うたら変やけど、見えない境界みたいなもんが」
「うーん、無くもないような……」
つい二三年前のことなのに、ずいぶんと遠く感じる。
「そう言えば何かで読んだんやけど」
「またくだらない話なのですか」
「人の話は聞く」
「……分かったのです。聞いてやるのですただし」
一息ついて
「もしくだらない話だったら……」
あとを聞くのが怖い。
「もしタイムトラベルができて好きな時代に行けんのやったらいつの時代に行きたい?」
「?」
「そやから、そういう質問やんか」
「それって、青春時代とかですか?」
思いつくままに一つ上げてみる。もちろん、私は青春時代に“戻る”ことはできないけど。
「・・・」
停止する水木さん。何かまずいことを言ったのだろうか。
「まさか、それがオチだったのですか」
「あ、ご、ごめんなさい」
「ええよ、ユーナちゃん。どうせウチなんて関西弁をしゃべる資格のない人間や……」
「あの、別に、私は面白くないと言ってるわけじゃ」
どうしよう。何だか、すごく悪いことをした気分。
「大丈夫ですよ。水木さんの話、十分面白いですって。だから自信もって」
「ほんでな、江戸とか平安とか自分の生きてへんかった時代に行きたいって言う人は未来志向で、自分の生きてた時代に生きたい人は過去にとらわれるタイプなんやって」
「水木さんはどうなんですか?」
「そら夢の幕末に行くに決まってるやん。でも大正ロマンも捨てがたいしな……」
「昔の自分に戻りたいとは思わないのですか」
古手さんの疑問に対しては、
「そんなん思うわけないやん。昔を思い出して喜ぶなんてええ年したおっさんのすることや」
「過去に何かあったのですか?」
「ま、過去が好きな人ばっかりでもない、ってことや」
そんなものなのだろうか。バスの中でウノやってた時は結構楽しそうだったのに。
「すいません、お話し中のところ申し訳ないんですが、そろそろホテルの方に向かいませんと」
ヘーゼルさんが私たちに声をかける。長いことしゃべっていたみたいだ。先生も今話を終えたところみたいで、庄屋さんと熱い抱擁を交わしている。
 ヘーゼルさんを先頭に、私たちはバスへ向かった。

 行きは永遠に続くかに思えたバスの旅も、ホテルまでは十分くらいだった。さすがのヘーゼルさんも疲れてしまったのかもしれない。
 さっきまでは活発にしゃべっていた先生や水木さんも今は静かに座っている。
「あちらに見えますのが、本日皆さんに宿泊していただく、ホテル“イーストサイド・イン”です」
来た時も紹介していた建物だ。周りが暗いとだいぶ印象が違う。一言で言えば、昼間見た時より派手だ。ネオン管、というのだろうか、色とりどりの電飾は城下町風情というよりもうちょっと雑然とした街に似合いそうな感じだ。
「このホテルはグッタペルカの中で唯一の観光局公認多目的宿泊施設にして、現在稼働している唯一の宿泊施設です。見た目はあれですが、内部は快適ですよ」
ド派手な紫の光の輪っかの中に、“EASTSIDE Inn”の文字が点滅する……輪っか、紫?

 確かにヘーゼルさんの言葉には嘘はなくて、外装からは想像できない落ち着いた室内だ。私と先生、そして水木さんの三人で二部屋に分かれることになったんだけど、そこでひと悶着あって、
「センセみたいな人がいたいけな女の子の寝室に入ってこんといてもらえる?ユーナちゃん、男はみんなオオカミや、気ぃ許したらあかんで」
「僕がオオカミなら水木君はフェンリルだよ。寝てる間に頭から丸のみだよ。明日お腹の中から出てくることになるよ」
赤ずきんちゃんかい。
「じゃあ、私は一人でいいから二人で寝たら……」
「嫌」
「僕だって、嫌だ」
埒が明かない。というか私はとにかくさっさと寝たいんですけど。
「こうなったらコイントスで勝負や。このコインを投げて、表やったらウチがユーナちゃんと一緒の部屋で寝る。裏やったら、センセに譲るわ」
「いいとも、望むところだ」
コイントスって片方がコインを投げて、コインが空中にある間にもう片方の人が表裏を宣言するんじゃなかったっけ。別にいいけど。
 というわけで水木さんがコインを投げる。そういえば来る時に言ってたけど水木さんって確かものすごくこういうゲーム強かったんじゃ……先生は勝てるんだろうか。
 そんなことを考えているうちにコインは水木さんの手に。今コインは水木さんの手の中にある状態。ここでコインが表だったら水木さんの勝ちだ。ゆっくりとどけた手の下には
「表や。残念やねセンセ。これで今夜一晩ユーナちゃんはウチのもんや」
「って、これ、両方とも表じゃないか!」
「悪いけど、そういうコインやねん。それに、さっきちゃんと言うたやん。“このコインを投げて”って。その時確認せえへんセンセも悪いわ」
私の運命がこんな不公平不公正なプロセスで決められていいのだろうか。世の中そんなものなのだろうか。
「夜は長いで、覚悟しいや。今夜は寝かさへんで~」
「寝ますよ」
一日で極東から本初子午線近くまで来たんだから正直疲れてしまった。かなり眠い。
「じゃ、お休み、センセ」
「優菜、朝になったら絶対助けにいくからね」
本当に助ける気があるのか疑問だ。

 ベッドはふかふか、床はすべすべ、ここならぐっすり眠れそうだ。
「じゃあ、おやすみなさい」
「はいはいおやすみ~、って、何でやねん!」
「だって眠いし……」
「さっきの話聞いてへんかったんか。今夜は徹夜や、夜を徹して遊ぶんや」
手にはやっぱりウノのカードが握られている。他にやることないのか。
「一人でやってたらどうですか。私は疲れたんで」
そう言われた水木さんは眼に涙を浮かべて
「そんな殺生な……、一回だけ、一回だけやし。一人でウノやなんて淋しすぎるわ」
「二人でもそんなに楽しくはないと思いますけど」
「淋しさも二人で分け合えば半分やろ。人助けやと思って、な、お願い」
「そりゃあ水木さんは楽しいかもしれませんけど、私は負けてばっかりで楽しくないんですけど」
水木さんの眼はますますうるうる揺れている。ここで「ま、一回くらいいっか」なんて思ったら相手の思うつぼだ。私は冷たい視線でそれを退ける。
「……もうええわ。ユーナちゃんがそんな冷たい子やとは思わへんかったわ。ウチがこんな淋しい思いをしてんのにそれを見捨てるなんて。世知辛い世の中や」
あきらめてくれたらしい。寝よう。
「……世知辛い、世の中や」
私は世知辛い世の中に別れを告げつつ瞼を閉じた。


「来てくれると思っていたのですよ、“アザミ”さん」
何年かぶりに呼ばれた名。全身が浮き立つような強烈な懐かしさに襲われる。いつからか忘れ去っていた感情。最も根源的で、最も凶暴な情動。
あの頃の自分は今のようではなかった。あの頃運命は自分の手の内にあるとすら思えた。あの全能感と高揚が体の中で確かな記憶としてよみがえった。
でも、違う。もはやそれがまやかしだと知ってしまった。手の中にあったと思っていた運命が、自分の手の届かないところにあるということはあの時証明されたのだ。あの敗北によって。
「ウチはもう“アザミ”とちゃう。それはあんたらも知ってるはずや、“茶々丸”」
「では何と呼べばいいのですか」
「杏奈様、でええ」
“茶々丸”は部屋付きの寝巻の袖を余らせながら大げさに肩をすくめて見せた。
「では、杏奈様」
「……やっぱり杏奈でええわ」
「杏奈さん、一体何の用なのですか?もちろん旧交を温めたいというのなら歓迎するのですが」
「ウチの記憶では温めたくなるような旧交はなかったはずやけど、まあええわ、旧交ついでに聞きたいことがあってな」
「そうだったのですか。そういうことなのでしたら、プライベートに触れない限り、どんなことでも答えてあげるのですよ」
淡々と答える様子を見て、自分の心配が的外れなものなのではないかという疑いが首をもたげてきた。心配したようなことは起こらない。その可能性を信じたい。何でもないと言ってこの場から立ち去ってしまいたい。
 でもそんなことをするのは無意味だと知っている。何も起きないはずがないのだ。何もない所に好き好んで集まるような集団ではない。
「何を、企んでるんや?」
「どうしてそういう風に思うのですか?」
「あの庄屋って、“庄屋殺し”やろ。ヘーゼルも確かハシバミのことやったはずや」
「もしかして、仲間に入れてほしいのですか、“アザミ”さん?」
微笑む。遠い昔にしたように。心蕩かすような笑みが楽しかった日々をよみがえらせる。もしかしたら、そういうことなのかもしれない。結局、自分は過去を捨てきれない。ずっと一緒にいられたらどんなによかっただろう。そう思っている自分が確かに存在する。
 でも、それはできない。あの人たちを巻き込むわけにはいかない。
「あんたら、こそこそ集まって何する気か聞いてんのや」
「それを聞いてどうするつもりなのですか?手伝ってくれるわけではないのでしょう?」
「手伝いはせえへんけど、内容によっては邪魔することになるかも知らん」
笑みの中に僅かに変化がよぎるのが見えた。予期していなかった返答に動揺しているのか。
「……なら、なおさら教えるわけにはいかないのですよ」
当然の答えだった。こんなふざけた話にはお似合いの。
「そやから、こうせえへん?ウチもあんたも相手の邪魔はせえへん。そのかわり相手に危害も加えへん。たがいに不可侵」
「最初からそれが言いたかったのですか。それならそうと一言で言ってしまえばよかったのです」
「やっぱりあんたの言うたとおりやったんかもな」
「どういうことなのですか?」
「旧交を温めたかったんかも知らん」
微笑み。さっきとは明らかに違う種類の。
「おやすみのキスはいりませんか?」
「……遠慮しとくわ」
やっぱりろくな旧交ではなかったけど。



(続く)
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