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後書き 『インテグラル殺人事件』

てなわけで『インテグラル殺人事件』である。読んでわかるように、ぐだぐだだ。
これを書いたのは実は昨年度の文化祭の直後。時系列で言うと『本塔の事件』より前になる。

すこし、これを書いた経緯をば。
去年の文化祭が終わった直後のこと。僕は「来年もなんか一作書きたいなあ~。でも受験だな~」とか思っていたわけなのだが、一方で「無理かも」という諦めにも似た感情を抱いていたのである。
だが、予想に反して、なんと周りからは「ぜひBMISの作品が読みたい!」という声が多かったのである(と仮定する)。
すると(仮定より)、とうぜん「やっぱりなんか書こう」と思うわけであり、
しかしながら――ネタがなかった……。
何かないかと四苦八苦していたところ、遊人さんが言う。
「僕の言ったネタで書いてくれる?」
ネタがなかった僕は、受け入れることにした。まあ『三題噺』みたいな感じで受け入れればいいかと、そう思ったわけである。ですがその認識は甘かったのである。
次に彼が言った言葉は次のようなものであった。
「じゃあ、インテグラルで!」
……。すぐ反発しましたよ、おまえがや――ではなくて、遊人さんがやれば、と。しかし、一方的に無視されては反発のしようがない。
かくして僕はこの作品を書くことになったのあった。

さて、今回ブログにのせるに当たって、再度見直したのだが、如何せん1年前に書いた作品、どこがどう繋がっているのかも忘れているし、それ以上に文章能力の低さに改めてびっくりもした。
毎回言ってることだが――そしてそれ故に説得力のないことではあるが――
善処します。

それでは、最後に、
編集してくださった、Nと遊人さん
読んで下さった皆さん
有難うございました。
次回は本当に受験後になると思われ。
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小説 『インテグラル殺人事件』

 ここは、とある研究室の一室。そこでは、いかにも頑固そうな教授と、いかにも若くて元気はつらつとした、それでいて物静かな助手が一つのニュースを見ていた。

 
――今日未明、x県y市z大学でインテグラル名誉教授81歳が殺されているのが発見されました。詳しい死因は分かりませんが、ダッシュによる微分が原因だと考えられています――

 「何じゃと!」
 テレビを見ていた教授が急に叫んだ。しかも目の前にある机をたたきながら……。机にはいろいろ実験器具とかがあるから、無闇にゆらすのは危ない気がするんだけどな……。
 「あの……、アーク=タンジェント教授? 落ち着いてください。そんなに怒ると体に毒ですよ」
 一応、僕は教授を落ち着けるための言葉を言ってみた。もちろん、そんなことをいっても教授には通じないことは分かっていたけど。
 案の定、「なに! おまえエイのくせしてわしに命令するのか!」とか言われた。
 しかしながら、さすがの僕も自分の名前を侮辱されては黙ってられない。
 「アーク=タンジェント教授、それは聞き捨てなりませんね。僕の名前、a.テイスウをなめてもらわれちゃ困ります。僕は多くの人に役立とうとして、必死なんですからね。その証拠に、多くの人が仮に定数aと置いて使ってくれています。おかげでいろんな問題が解けるようになりましたよ」
 と、ささやかながらも自己弁護した。だが次の教授の言葉で、その意見は一蹴された。
 「ふん。そんな他の文字で代換え可能な人間になって何が楽しいんだ。何を喜ぶというのだ。つまらん人生だな」
 ……。それって何気に僕の人生を全否定してませんか? 「お前の居場所は空集合φだ!」みたいなっ!
 だめだ、若干テンションがあがってしまったみたいだ。とりあえず本題に戻すとしよう。
 「それより教授、なんでいきなり叫びだしたんですか?」
 「ああ、それはだな……」
 やや口篭もったが、一拍おいて教授は答えた。
 「お前は知らんだろうが、一昔前まで私はインテグラル教授と共同研究しとったんじゃ、助手としてな」
 「一昔って、何年前の話ですか?」
 「さあ、もうかれこれ49年前になるかの」
 それは一昔前とはいいません。
 「なるほど、つまり旧知の友人が殺されたために教授は激怒し、発狂し、激昂したわけですね」
 「3つも似たような意味の単語を並べるな。無駄な単語は証明には命取りになるぞ」
 別に何かを証明しようという気はないんですが……。
 「まあ、概ねお前のいうことは正解だ。まったく、インテグラルまでもが殺されるとは世の末じゃな。おそらく、ライプニッツ神もびっくりじゃろうなぁ」
 ライプニッツ神とインテグラルは関係ありません、とつっこもうとしたが、すんでのところでやめた。なんか怖そうだし。ちなみにライプニッツ神とは、今世界で最も信者数の多い宗教の神である。他にもパスカル教パスカル神とかニュートン教ニュートン神とかサイモン教サイモン神とかいっぱいいる。
 そんなことより、僕は教授の言葉が気になった。
 「教授、'までも’っていったいどういうことですか? もしかして――」
 僕の言葉が言い終わらないうちに、教授は頷いて答えた。
 「ふむ、お前の思っとるとおりじゃ。最近、この付近での数学者殺人が多発しておる。例えばこの間の’サイン助手殺人事件’なんかがそうじゃな。――というかお前はあれか、テレビとか見ない、心寂しい、身も寂しい、財布の中身も寂しいとにかく寂しい人間なのか?」
 「そこまで連呼しないでください……。半分以上真実ですが……」
 誰かさんが僕にばっかり食事を奢らせるからですよ……、とはあえていわない。やっぱり後が怖いし。
 「それで教授、その’サイン助手殺人事件’とやらはなんですか?」
 「よし、では何もかもで満たされているこの私が、寂しいお前にこの事件のあらましを教えてやろう」
 「何もかもってことは、強欲とか、意地汚いとか腹黒いとかいったことも含まれていますよね?」
 言った後で、しまった、と思った。アーク=タンジェント教授は怒ると怖いからなあ……。
 だが予想に反して、教授は怒らなかった。その代わりに
 「ふむ、確かにわしはそういったもので満たされておる。だがわしにはそれ以上に慈悲や慈愛で満たされているのだよ」
 それらの言葉は僕の脳内で’自費’、’自愛’と変換された。教授はさらに続ける。
 「つまり部分分数分解的に見れば慈悲や慈愛だけが残るということじゃな」
 ……。数値と言葉を一緒にして良いものなのか疑問だが、とりあえずスルーする。ここは怒られずにすんだだけでよしとしよう。
 「で、教授、事件の説明をお願いします」
 「そうじゃな。この’サイン助手殺人事件’はこの研究室から最も近い大学、R大学で起こった。見つけたのはタン=ジェント準教授。サイン助手は頭を殴られて頭蓋骨が割れていたそうじゃ。すなわち撲殺。現場は特に争った形跡がないことから助手と親しい人間の犯行ともとれるが、結局怪しい人間は見つからなかった。しかし、その代わりに捜査線上に上がってきたのがコサインという男の名前だった。このコサインは、サイン助手とは最も仲の悪い人間で金銭的なトラブルでいつももめていたらしい。名前までわかったんだから当然そく逮捕! と警察はいきたかったんじゃろうが、ここである問題が起きた……」
 先生は一拍おいてこう言った。
 「なんと、誰も彼もが『コサインなんてこの世に存在しない』と言うのじゃ。そういうことで、結局そのコサインという男は見つからず、捜査は迷宮入りとなったのじゃ……」
 なるほど。最後は犯人捕まらずか……。
 「どうじゃおぬし、不思議で恐ろしい事件じゃろ?」
 と教授は少し挑発めいた声で聞いてきた。
う~ん、確かに不思議だ……。『この世に存在しません』っか……。
 と、このとき教授をみるといかにも今の状況を楽しんでいるような笑みを浮かべていた。そう、まるで新たな悪戯を考えついた子供のように。
 その顔を見たとたん――、僕は真実に気付いた。
 「なるほどね。こんなの簡単な問題じゃないですか。『コサインなんてこの世に存在しない』この証言が真であるならば答えは一つ。コサインという人は別人になったんですよ。cos分のsinはtan。cosがsinを割ればtanになるんですよ。そう、すなわち犯人はタン=ジェント準教授です。サインを殺した時点で、もはやコサインとして存在できなくなったんですね。数学的にみれば自明の事件です。以上でQEDです」
 一応探偵っぽく、かっこよく締めてみたつもりだ。
 僕が推理を言い終えると、教授は不敵に笑い出した。
 「くくく、さすがはエイ、よくわかったな。」
 「ええ、まあね。教授があんなに悪戯めいた顔をしていたからですよ。あれじゃあ、何か裏があるなってバレバレですし。たぶん答えはもう出ているんだと思ったんですよ」
 「なるほど、すばらしい観察眼じゃな。もしかしたらお前には探偵の素質があるかもしれん」
 予想外にも教授は僕を褒めてくれた。うれしかったが、一応謙遜することにする。
 「いえいえ、僕が今回謎が解けたのは教授の要領を得た話があったおかげですよ。実際に事件に向き合った人には、いろいろとジャンク情報もあったはずですから、この事件を真っ先にといた人間こそが真の天才ですよ」
 「ちなみに、この事件を解決したのはわしじゃ」
 「……」
 くそ、このじいさん僕を引っかけやがったな……。ていうか僕を褒めたのはこれを言う布石ですか、そうですか。
 「フッフッフ、おぬしもまだまだよの。前言撤回じゃ、おぬしは探偵に向いておらん!」
 和をとれば誘導尋問。極限をとれば詐欺師……。
 「先生、性格悪くありませんか? 最初からから知ってたくせに問題形式にするなんて」
 「何を言うか。これしきの問題、おぬしでも解けるだろうという私なりの信頼、愛、友情ではないか」
 3つも並べるところが嘘くさい。いや、嘘そのものだ。ていうか『無駄な単語は証明に命取り』とか言ってたのあんただろ!
 いかんな、若干興奮してしまった。少し落ちつこう。
 「まあ、その件はもういいです。他にはどんな事件があったんですか?」
 「ほう、ずいぶん数学者殺人に入れこんどるようじゃの」
 そう言って、教授は一瞬僕を探るような目で見た。
 僕は一瞬どきっとしたが、すぐに冷静さを取り戻しこう言った。
 「ええ、一応僕も数学者ですからね。この手の事件について詳しく知っておきたいんですよ」
 「ふん、まあそう言うことにしておいてやろう」
 教授の言っていることはよくわからなかったが、とりあえず戯れごとだと思って無視する。
 「そうじゃの、’サイン助手殺人事件’と似たような事件で’ログ丸太郎殺人事件’というものもあるがこちらはまだ犯人が捕まっておらんしのう。お前に問題だせんなあ~」
 僕に問題出すこと前提か。困った人だ……。
 「おお、そういえばこんな事件もあったな」
 「どうせまた問題形式で出すんでしょう?」
 「何を言うか、このワカゾウ。このわしがそんなにひねくれた人間に見えるか?」
 Yesと言ったら――、どうせ「それはお前の心がひねくれてるからだ!」とか言うんだろうな……。よし、とりあえずは言わな――
 「それはお前の心がひねくれているからじゃ!」
 ダイレクトかよ! 僕まだ何にもいってねえよ! 教授、物事には順序ってものがあるでしょ! 無視ですか?
 「確か3ヶ月前の事件じゃったかな、あれは」
 無視ですね、はい。別にかまいませんが。
 「それは世間では’A一族殺人事件’といわれておる」
 それを聞いたとたん僕の背中はゾクッとした。
 「おい、おぬし何を怖がっておる。同じエイだから同族意識をもっているのか?」
 僕は何も答えない。
 先生は先を続ける。
 「その日はA一族の当主S.ワデスの誕生日パーティーだった。もちろんのことながらA一族は全員出席じゃが他にもちらほら有名な数学者がちらほらいた。なんてってワデスといえば世界的に有名な数学者の一人じゃからの。当然のことながらそこでは盛大なパーティーが開かれ誰もが幸せそうな顔をしとった。じゃがそんな時に悲劇は起こった……。なんと、当主のワデスが首をつって死んでいたんじゃ。誰もがみなこれは自殺だと思った。なぜなら、鍵はかかっており密室だったのは当然のこと、特筆すべきはその場にいた全ての人にアリバイあったからじゃ。――どうじゃ、この事件おぬしに解けるかな?」
 僕は何もいわない。「解けました」と言ったら博士に何か言われそうで怖いからだ。
 博士の目は何かを探るような目をしていた……。
 「ふむ、さっきの問題が解けたおぬしでもさすがにこの問題はとけんか。まあそりゃそうじゃの。この問題は低レベルの数学者に解けるような問題ではないからの」
 「低レベルなんて失礼ですね」――なんて言わなかった。言えなかった。
 今日の教授は何かが変だ。いつもならこんな探るような目はしない。もちろん、性格が悪いから時にはそんなことをするのだけど、今日のは度を越しているように思う。
 「まあ、そう怒るな」
 僕の表情を読み取ったのか、教授はそう言った。相変わらず人が悪い……。
 「実はこの問題、高レベルの数学者でも解けなかったんじゃ。なんせ、そのパーティーにい合わせた数学者も一人を除いて解けんかったからの」
 その一人というのは――
「その一人というのはシグマ名誉教授じゃ。数列界の権威じゃな。まったく彼にはわしも頭が下がるよ」
 先生にも頭が下がる人がいるんですね。そのシーンを見てみたいものです。
 「それより、おぬし。この問題は降参か?」
 教授は再び見透かすような――心をえぐるような――そんな眼をした。
 先生の視線に気おされて、僕は首肯する。とりあえず教授の不可思議な行動について考えるのはよそう。いくら完璧主義者で自己中心主義者で自信家の教授といえどもそのうちボロを出すだろう。追求するとしたらそのときだ。
 「そうか、降参か。まあ、そうするのもええじゃろう」
 そう言う先生は、とても嬉しそうだった。何がそんなに嬉しいというの――いや考えるのは後だな。
 「それでは、シグマ教授がいかにしてこの事件をといたのかを教えて進ぜよう。まず、A一族の中でも最も身分の高かった男はA=ワンという名前のやつなのじゃが、そいつが犯人であると予想してみる。するとなんとこいつA=ワンには犯行が可能なんじゃな。すなわちA=ワンは犯人であることが証明されたわけだじゃ。と、ここまでは平凡レベル。事実、警察やその場にいた数学者の内の何人かもこのことには気が付いた。ということで、事件はそのまま終わろうとしていたわけなのだが、ここからがシグマ教授のすごいところじゃ。シグマ教授はその証明にこう付け足した。まず、A一族の中でもk番目に身分の高いものをA=ケイとし、この男が犯人であることは成り立つと仮定するんじゃ。次に、A一族の中でもk番目の次に偉い人――つまりk+1番目に偉い人をA=ケイワンとする。するとどうじゃ、さっき仮定したようにA=ケイが犯人であるとすると、なんとA=ケイワンが犯人であることが証明できるのじゃ! つまりA=ケイが犯人ならばA=ケイワンも犯人と言うことじゃ。そしてこれらの結果を総合して考えると、A=ワンが犯人じゃから当然A=ツウも犯人。そしてA=ツウが犯人であることにA=スリも犯人になる。同様にA=フォウもA=フィベも、そしてもっと言うとA=ワンジリオンまでもが犯人ということなのじゃ! すなわち! A一族全員が犯人だったのじゃ!」
 おお! いままで教授を疑っていた僕だが、そんなことも忘れてこのすばらしい証明に見入ってしまった。なんて美しいことだろう!
 「それはすごいですね! 見事なまでの数学的帰納法です! ここまで綺麗で華麗で美麗で秀麗なものはインボリュート曲線を見て以来です! 感動した! これぞロジック、これぞマジックです!」
 そんな一人で興奮している僕に対して教授はいたく冷静だった。そして厳しいツッコミが――。
 「『マジック』? なんだそれ、意味がわからん。うまくいったつもりなんだろうが、理解不能だ。あまり無闇に韻を踏む必要ないと思うぞ」
 うぐっ。教授にまじめに突っ込まれてしまった……。しかも若干ひかれてる?! 反省反省剣呑剣呑、ってまたやっちゃってるし……。
 とりあえず、その場の形成を立て直すことにした。
 「それよりも教授、この事件本当にすごいところは――あ、いえ、もちろんシグマ名誉教授の証明が一番すごいんですが……」
 途中、教授に睨まれて言い直した。どうやら教授のシグマ教授への尊敬は本物のようだ。
 「えっと、普通『〇〇殺人事件』といった題名があれば『〇〇』の部分には被害者名や犯行が行われた場所が入ります。『アクロイド殺人事件』や『オリエント急行殺人事件』のようにね。ですがこの事件は違います。なんてったって『〇〇』の部分に犯人名が入ってしまっているんですから! なんという叙述トリック! こんなの前代未聞ですよね、題名に犯人の名前が入っているなんて! これぞまさしく、天才の御業に違いない!」
 そう言って、僕はまた一人で興奮してしまった。そんな僕を見て先生は再び口を開いた。
 「ちなみにこの事件を命名したのはわしじゃ」
って、またあんたかい! ていうかどんだけ警察に干渉しちゃってるんですか! いくら(自称)天才数学者だからといってそんなこと出来ちゃうもんなんですか? 
 「ふふ、このすばらしき頭脳を思い知ったか!」
 思い知りはしましたが、それが’すばらしき頭脳’によるものとは限りません。あくまで必要条件。
 「蛇足じゃが、実はこの事件解決しておらんでな。さすがはA一族というべきなんじゃろうが、何人かは逃亡してしまっておるんじゃな。まったく恐ろしいことよ」
 そうして教授は、またあの目を――僕に向けた。
 何かがおかしい、僕はそう思った。いや、なにがおかしいかは判ってる。もちろん教授の態度だ。
 何故探るような目を向けるのんだ?
 いったい何だというだ? 何がおっこっているんだ? まったく理解できない。僕が何かしましたか? 
 いやいや落ち着け自分。僕は何もしていない。
 思い出せ、いつから先生の態度がおかしくなったのかを。
 そうあれは確か、僕が『サイン助手殺人事件』を解決した後からだ。
 そう、OK。じゃあ次は何故そこからおかしくなったのかを考えようじゃないか。
 だが、僕にはわからない。何かおかしなこと言ったかな? あのときの推理といえば『cos分のsinはtan。つまりタン=ジェント助教授が犯人』というものだったよな……。
 え? 今僕はなんていった? 『cos分のsinはtan』? もしかして、それじゃあ――。
 その時僕の推理に一筋の光が見えた、と同時にそれは恐るべき真実をいけいれなければいけないというものだった。
 「ん? おい、おぬしどうした。何をそんなに固まっておるのじゃ」
 しばらく黙っていた僕に教授がそう告げた。
 「教授、もう演技するのは止めたらどうすか?」
 「な、何を言っておるのじゃ? いったい、な、何のことなんじゃ」
 明らかに焦っている。でも教授はあくまで白を切りとおすつもりらしい。だったら仕方がない。僕がこの事件のけりを付けようじゃないか。
 「教授、さっきから僕のことを伺い見るような目で見ていたから、あなたが何か隠しているんじゃないかと思っていたんですよ。そして今、その謎が今ようやく解けました」
 教授はこちらを見つめたまま黙っている。
 「教授、あなたは――人を殺しましたね」


 しばらくの虚数のように実感のできない沈黙……。
 やがて先生が沈黙を破った。
 「おい、いったいなんのことを言っておるんじゃまったく。戯言も途切れ途切れにいえよ」
 「教授、『cos分のsinはtan』ですよ。これは自明であることは数学的に見てあたりまえですね。そこで僕はこう思ったんです。『この式はそれぞれをx=yにおいて線対称に移動させた場合、つまりarccos・arcsin・arctanの場合でも成り立つのではないか』とね。すなわち『arccos分のarcsinはarctan』になるんですよ。違いますか? 『数学者』のアーク=タンジェント教授」
 僕はあえて『数学者』の部分を強調していった。アーク=タンジェント教授の自尊心を揺さぶるために。
 教授は僕の質問に対しては「まあ、ならなくはないわな」とお茶を濁しながら答えた。
 「ということはその式は成立するということですね?」
 僕はなおも追及するが、教授は黙秘する。なるほど、あなたがそういうつもりなら、こちらは勝手に推理を続けるとしようじゃないか。
 「先ほどの式『arccos分のarcsinはarctan』が成り立つのならば、当然新たな真実が浮かんできます。それはコサイン助手殺人事件とまるで同じの――鏡に映したかのような真実です。まさに相似しているといってもいいでしょう。その真実は――」
 「わしがアーク=サインを殺したということか?」
 僕の推理を遮り教授はいきなり割り込んできた。
 「……ええ、そうです。アーク=サインがどこの誰なのか知りませんが、あなたは彼を殺したはずです。それによってあなたはアーク=コサインとして存在することができなくなった。それゆえのアーク=タンジェント教授です」
 このときの教授を見ると、視線が合った瞬間顔をそらされた。何かをこらえてるように。
 「そして、あなたが過去に殺人を犯したのだとしたら、今までの怪しい行動に説明がつきます。教授、あなたが怪しい行動をとり始めたのは僕がサイン助手殺人事件を解決してからです。このときあなたは、僕の推理力を見てこう思ってしまったんじゃないですか? 『もしかしたらこの人に私の昔の殺人が暴かれてしまうのではないか』とね。あなたはいてもたってもいられなくなったでしょう。推理力があるだけならまだしも、自分が興味本位で話し掛けたサイン助手殺人事件のなかにとんでもないヒントが隠されていたのですから。その結果あなたは僕を観察し、自分の罪がばれようとしているのかどうなのか伺い見ていたのでしょう。 違いますか?」
 僕は決定的な証拠をたたきつけたと思ったのだが、教授はいたって冷静沈着だった。なにも言わない。ただ黙っている。
 と、そのとき突然教授が笑い出した。
 「くくく、面白いぞおぬし。笑いがこらえきれんわい」
 そう言ってさらに笑う。その笑いは、真実を告げられた殺人犯の狂気の笑いというよりは、むしろ本当に心のそこから自然に笑っているようなそんな感じだった。
 あれ、おかしいな。あなたは殺人犯のはずじゃ……。
 僕があれこれ悩んでいると、ようやく笑いが収まったようである教授が口を開く。
 「フフ、おぬしは探偵失格だけでなく数学者としても失格のようじゃの。これほどの詭弁駄弁、机上の空論砂上の楼閣は初めてじゃわい」
 殺人犯にそこまで言われる筋合いはありません。僕は教授をにらみつけた。
 「教授、どこが詭弁だというのですか?」
 「お前の大きな見落としは2つある。まず、おまえが考え出した公式『arccos分のarcsinはarctan』じゃが、そもそもここが間違いじゃ」
 え? でも教授、あなたが「ならなくはない」といって肯定したんじゃないんですか?
 「いいか、わしは『ならなくはない』と確かに言った。じゃがこれは完全ある肯定ではないんじゃよ。少しでも日本語力のある輩であればこのくらいすぐわかるはずじゃ。まあ、おまえみたいな理系人間にはわからんじゃろう」
 教授、それは差別ですよ。というかあなたも理系人間でしょ!
 「確かにこの法則が成り立つこともある。じゃがそんなのは稀じゃ。都合のよい綺麗な値の場合のみなのじゃ。なぜなら『アーク』とは、あくまで逆関数であって逆数ではないからじゃ。そこにまず一つ目の過ちがある」
 うう、なるほどそれは迂闊でした。それ故の「数学者失格」ですか……。
 「続いて2点目。おぬしは、わしが自分の罪のばれるのを恐れた、とぬかしたが、それならば何故わしはわざわざ事件の話をなおも続けて、わざわざお前の推理を刺激するようことをしたんじゃ? これは犯罪心理学に反しとる。普通なら逆じゃろう。事件から目をそらすために話題を変える。それが常套手段ではないのかな、ワ・カ・ゾ・ウ?」
 最後の方はいかにも皮肉っぽく嫌味っぽくいわれた……。 
 「うう、しかしですね、それはあくまで普通の人ならばの話であって、規格外の教授は考慮に入れませんよ。それに先生なら裏の裏を読んで事件の話をするかと――」
 「そして自ら自滅するとでも? まったくばかばかしい、わしならそんな失敗はせんよ。エイごときにわしは負けん!」
 ……。今度ばかりは名前を侮辱されても何もいえないな。確かにそうだ。教授ならそんな失敗をしない。ボロを出すことはあっても、それをうまくフォローできる人間なのだから。伺い見るような目をしてくるのは明らかに露骨でしたから、教授のやり方ではありませんね。
 僕は完全なる敗北を感じ取った。
 あれ? でもそれだったらどうして教授は僕のことをじろじろ見ていたんだ?
 こんな疑問が僕の中で浮かんできたが、その疑問は次の教授の爆弾発言で見事に消し飛ばされた。
 「とはいえ、ワカゾウ。わしがアーク=サインを殺したのは事実じゃ」
 ……え? 今なんておっしゃいましたか? 「殺した」?
 あまりの急な発言に僕は驚愕を隠せない。
 「ちょっと、教授。それは、どういう――」
 「そのまんまの意味じゃよ。いや、もちろんお前の考えているようなこととはパイラジアン違うと思うがな」
 僕はにはわけがわからない。先生がこの人を殺したことを認めた。でもそれは僕の思っているようなこととは違う……。
 「つまりこういうことじゃよ。わしはアーク=サインのやつを死刑台に送ってやったのじゃ」
 なっ、それはつまり――。
 その時、先生はポケットからあるものを取り出した。そしてこう言った。
 「この紋所が目に入らぬか!」
 水戸黄門かよ! ていうかネタが古い……。
 もっとも、そのときの僕は教授が言うところの’紋所’を見てしまって、そんなツッコミをしている余裕なんてなかったのだが
 「そ、それは!」
 「うむ、フィード章じゃ」
 説明しよう! フィード章とは、世界にまたがる探偵機関「フィード・インターナショナル・ディテクティブ・アソシエーション」略してFIDAに所属する有数の探偵の中でも、特に優秀と認められた7人のみが受け取ることが出来る紋章のことである!
 「な、なぜ教授がフィード章を?」
 「ふっ、そんなくらい推理したらどうかね」
 そのとおりだ。教授がフィード章を持っている限りは、この人はFIDAに属しているということだ。そしてこの人はその中でも特に優秀な人材……。
 「じゃあ、つまりこういうことですか。教授は探偵だった。そしてある事件がおきて、その事件を解決していくうちに犯人がアーク=サインであることがわかり、逮捕。その後その人は死刑になったと?」
 「ああ、そういうことじゃな。もうかるようにわしの本名はアーク=コサインじゃ。まあ、もはやこの世に存在しえない名前なんだがな。ふっ、そして本職は探偵じゃ!」
 な、なるほど。もしかしてもしかすると、いろいろ警察に干渉できていたというのはこのための伏線だったのか?
 って、まてよ。じゃあ何で――。
 「じゃあ、何でフィード章授章者である教授がこんな何の変哲もない普通の研究室にいるんですか?」
 「おぬしが、それを聞くかのか? 本当はもうわかっているのではないのかね」
 ……。僕は何も言わない。
 「黙秘か。どうしようもないやつじゃ。ならば推理しようではないか」
 ……。
 「ずばり言おう。インテグラルを殺したのはお前じゃ」
 ……。


 一時の無の静寂の後、僕は教授に聞いた。
 「それはどういうことですか?」
 「ふん、いたって自明の話じゃよ。わしはお前に言ったはずじゃよ。’A一族殺人事件’はまだ解決しておらん、A一族の内の何人かは逃げた、とな。そしておまえ、それでうまく誤魔化せているつもりか? お前の名前はa.テイスウなでえはない! A=ワンミリオンじゃ!」
 ……。
 「で、教授。それがインテグラル殺人とどういう関係があるんですか?」
 「ほう、するとお前、本名がA=ワンミリオンであることは認めるんじゃな?」
 「そ、それは……」
 だんだん自分の形成が危なくなっていることに気づく。何とかしないと……。
 「いいか、A=ワンミリオンといえばA一族の中でも100万人目の身分。そんなやつは、A一族内ではいてもいなくても同じ人間じゃ。ほんでもって、そんな人間が逃亡しようと思ったら当然誰かの手助けが必要なわけじゃ。そんなときお前の頼った人物が――インテグラル名誉教授だったというわけじゃな。そのおかげでおぬしはこの数学界に簡単に入ることが出来たということじゃ」
 やばい、何とか切り返しを――
 「だがここで問題が起こった。インテグラル名誉教授がお前を脅迫してきたんじゃな。『俺はお前をかくまってやっている。だから、金を出せ。払えなかったら警察に突き出すぞ!』といったようにな。しかも、逃亡民であるおまえにとっては莫大な金額を。だからおまえはインテグラル名誉教授を殺した。近くにあったダッシュで微分してな! どうじゃ、言い返せるものなら言い返してみろ」
 だめだ、何も浮かんでこない……。
 「言い返せんじゃろ。しょせん2次平面において、点であるおぬしには――数列の一部でしかないおぬしには、わしのような優雅なる曲線arctangentには勝てんよ。おぬしの失敗を教えてやろうか?」
 何もいえなかった僕はとりあえずここで発言することにする。
 「僕はインテグラルを殺した覚えはありませんから、とにもかくにも失敗のしようがありません。ですからぜひその失敗とやらをお聞かせ願います。そんなのは何かの勘違いであることは自明ですが」
 一応、強情を張ってみたが墓穴を掘っていることに気付いた。そう、これを言ってしまうと証明された後に言い返すことができなくなるのだから……。
 「まずは、『数学者殺人に入れこんどるようじゃの』とわしが言ったときのことじゃ。一瞬だがおぬしは動揺した。わしが普段から探るような目をすることはお前も知っているし、慣れているじゃろ。なのにたった一回そうしただけで動揺するのはおかしい。二つ目は『それは世間では’A一族殺人事件’といわれておる』とわしが言ったときじゃ。おまえはあのときの犯人じゃからのその名を聞いてついつい反応してしまったんじゃな。それ以来お前はしばらく黙り込んでしまっておった。三つ目は、お前には、’A一族殺人事件’の犯人がわかっていたということじゃ。にもかかわらずあのとき推理しようとせんかった。これはその事件の犯人がお前じゃったから、深層心理で推理することを拒んでいたんじゃな」
 え? ちょっとまってくださいよ。
 「教授どうして僕の心の中が読めちゃってるんですか。そんなの普通はわからないでしょう。つまりあなたの論理はきわめて曖昧であるということです」
 「ふっふっふ、つまり今のお前の言葉でおぬしがそう思っていたことが証明されたわけじゃ」
 う、しまった引っ掛けられた……。
 「とはいえ、まあある程度予想可能な範囲じゃ。あのときのお前は証明したそうにうずうずしていたからの。もっともシグマ名誉教授の証明には心底感動したようじゃったから、お前の証明はこれとはまったく別のものだったのじゃろう。おそらく『全ての人にアリバイがあった、このことが真であるならば答えは一つです。その場にいた全員が犯人ということです』とかいう、なんの論理もない結論ありきの推理だったんだろうがな」
 くそっ、そこまでわかっていやがったのかこの人は。
 そうか、だからこの人は今まで僕のことを’a’とは呼ばずに’エイ’と呼んでいたんだな。僕の本名を知っていたから……。僕も前々から不思議には思っていたが――いや、これは言い訳だな。
 そして僕が「もう演技するのは止めたらどうすか?」と言ったときに動揺したのは、自分が探偵として相手を捕まえる存在であると、ばれたと思ったからなのか。
 むう、ここまでばれてしまったのなら仕方がない。こうなったら――。
 「どうだ、降参かね? おぬしもいいわけできま――」
 僕はポケットに入っていたダッシュで思いっきり相手を突き刺した。
 一瞬、風が切り裂かれるような、関数の連続性が断ち切られるような、澄んだ音がする。
 「なにを――」
 そういって教授は倒れた――あっけなく。
 「教授、つめが甘かったですね。さすがにその老体では避けられなかったでしょう」
 最後に僕は「それでは」と言って扉から出て行こうとた。僕の靴音がサイン関数の波動となって響き渡る。
 と、そのとき。
 僕の背中に激痛が走った。
 「な――」
 後ろを振り返るとそこには……。
 「っ?! 誰だっ!」
 なんと僕の知らないおじさんが立っていた。……この人どこから湧いてきたんだろうか。
 「誰とはずいぶんなご挨拶だね。さっきまで君と一緒に語り合っていたではないか」
 え? じゃあ、あなたは――
 「いかにもアーク=タンジェントだよ。もっとも、今は微分されてイチタスエックスニジョウ=ワンになったけどね」
 ちょ、名前長すぎるよ! 何なんですかその長い名前は! しかも心なしか口調が変わちゃってるし……。 
 っていうか何で微分したのに死なないんですか、あなたは! もしかして無敵キャラかなんかですか?
 「ふっふっふ、相当びっくりしているようだね、君は。そこが君の勝てなかった所以だよ。さっきも言でしょ、『2次平面において、点であるおぬしは、数列の一部でしかないおぬしには、わしのような優雅なる曲線arctangentには勝てんよ』とね。君は井の中の蛙なんだよ。世の中には微分しても死なないやつがいることを知らなかったんだな。まったく愚かしいことだ」
 「そ、そんな……。微分したのに死なないなんて反則だ……」
 その時僕の意識が薄れ始めた。
 「まったく、君にはそんなことを言っている余裕はない思うね。自分の背中をご覧よ」
 僕が背中を見てみるとそこには――ダッシュが刺さっていた……。
 「君は単なる数字。微分されたらもう存在できなくなる。本当ならば君の命があるままに捕まえたかったが、ダッシュなんていうアブナイ凶器を取り出してきたからにはしかたがない。FIDAの法則第314159263条に従って、君をその場で消去することにした。短い付き合いだったが、ここでお別れだ。向こうにいっても元気にやれよ」
 向こうってどこですか……。というかあなたにとってダッシュは凶器じゃないん――。
 だめだどんどん力が無くなっていく……。
 やがて僕の頭の中は’無’になった――。

 

 ―数学の本質は、その自由性にある―
             カントール



《It's a wonderfull equation》 was Quod Erat Demonstrandum......
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